東京都渋谷のパッケージ・グラフィックデザイン 株式会社T3デザイン

私的で胡乱な九龍の話

2020.06.22
社員ブログ
私的で胡乱な九龍の話

みなさん、おはこんばんちわ。ノーマル一般社員クーロン林です。もし“Googleマップを駆使する警察”が居たら、それは“Googleマッポ”だよな~と考える今日この頃。Twitterで“Googleマッポ”で検索したら、おんなじこと考えている人が沢山いて自分の想像力の限界を感じてしまいました。

茶飲み話はこの辺に、本記事ではそんなGoogleマップで探しても出てこない場所

九龍城塞(くーろんじょうさい)

に関するお話を取り留めもなくダラダラ話していきたいと思います。

九龍城砦
引用元:今はなき香港のスラム街「九龍城砦」に魅入られた写真家が切り取った世界

1. ざっくり概要

通称、九龍城とよく言われるこの建物、なんともうこの世に無いんです。九龍城は1950年あたりに香港で誕生した大規模なスラムのことです。香港に大量に流れてきた移民が住みつき、小さな小屋をレゴブロック感覚で継ぎ足し続け、禍々しい巨大な建築物へと昇華させました。

九龍城のなかには、歯科医やら製麺業者やら魚屋といった様々な仕事や店が存在していたそうです。さながら“住めるイオンモール幕張新都心店”って感じですね。しかし、人口密度が高く、衛星管理が行き届かない空間はあらゆる犯罪の温床となり、九龍城はその成り立ちゆえに多くの問題を抱える無法地帯でもありました。国の管理が行き届かずフワフワした位置づけだった九龍城は1993年~1994年にかけて解体作業が行われこの世から無くなりました。これがざっくりとした九龍城の概要です。

九龍城の写真や歴史、住民へのインタビューなどを知ることができるサイトをウォール・ストリート・ジャーナルが作成 しています。詳細や当時の雰囲気を知りたい方にはオススメです。

2. ざっくり印象

こんなアナーキーの塊みたいな建築物のどこがいいのか。まさにそのアナーキーで荒唐無稽な代物がかつてこの世に存在していた、ということが好き者にとってはたまらんことこの上ないのです。怪しげなアジアンテイストの雰囲気、エキゾチックなネオンの光、デカダンチスム溢れる外観と内観、横文字に逃げましたが...とにかく浮世離れした異界のような場所、それが九龍城の魅力...なんだと思います。

でも、これはあくまで外野の私から見た印象です。実際に九龍城に住む人々、その周辺の住人からすれば複雑な気持ちが渦巻いていたのだと思います。

急な自分語りですが、昔、私の自宅のアパートの配管が壊れ、天井から水と建材がドカドカと振ってきたことがありました。部屋の一角が水浸し、屋内に充満する建材特有の異臭。その時、思わず頭をよぎったんですよ「うわぁこれ九龍城だ」って……。比べてやるなよという気もしますが。

なんの話してたんでしたっけ、まぁとにかく物事には良い面良くない面があるから手放しには褒められないってことですね。説教くさくなったので、ここらは九龍城が舞台の作品について話してきたいと思います。

3. 九龍城が題材のゲームがある

九龍城を題材にしたアドベンチャーゲームが1997年にプレイステーションのゲームソフトで出ていたんですね。

クーロンズ・ゲート-九龍風水傳-

現世「陽界」とは別の世界「陰界」から現れた九龍城の風水を正し、世界の崩壊を防ぐため「超級風水師」の主人公が奔走するというストーリー。なにがなにやら訳が分からんですね。ストーリーはさておき、世界観はブレードランナーのようなサイバーパンク的エッセンス + 九龍城というオタクバカウケの要素しかありません。天津飯+炒飯=天津炒飯みたいな悪魔的発想です。

Googleストリートビューのように徘徊しているだけで九龍城の世界に浸ってられる唯一無二のゲームです。どこを映しても胃もたれするくらい九龍城なこのクーロンズゲート。ゲーム内のインターネット「クーロネット」の映像を流しているだけでゲームの住民気分になれます。

この映像を延々と垂れ流しながら、友人と麻雀をしたときは得も言えぬ情緒がありました。さながら『SOLID STATE SURVIVOR』って感じですね。

4. 九龍城が題材のマンガもある

2019年に九龍城をガッツリ舞台にしたマンガがはじまりました。

九龍ジェネリックロマンス

ファミレス店長と女子高生の恋慕の話を描いた『恋は雨上がりのように』ってマンガと同じ作者さんですね。「恋は雨上がり~」の店長がパトレイバーの後藤喜一にクリソツだったんですよね。ネットでもよく言われてましたけど。

この『九龍ジェネリックロマンス』は九龍城を舞台にした記憶喪失の女主人公と主人公に関して訳知りな男の惚れた腫れたの話です。このマンガの九龍城はかなり小綺麗な街として描かれています。衛生的で清潔、適度に日が差し、陽の気が流れている街。さっきまで紹介していた九龍とはかけ離れているようにも感じそうなのですが、しっかりと九龍城らしさが出ていることがこのマンガの魅力といえますね...。

5. 日本で九龍城を感じられる場所

エンタメ作品で重宝されるほどの魅力を持った九龍城。九龍城を感じられる、実に九龍城っぽい場所が日本にもあるのではないか。それこそ机上の九龍ですよ、アハハ。なんて薄ら寒いことを考えていた学生時代。

そんな中、見つけました…...実に九龍城っぽいベストプレイスを。

それがこちら。



ドン・キホーテ新宿店 です。

…。

……。

ドン・キホーテ……新宿店です。

我が物顔で紹介した場所がいうに事欠いて驚安の殿堂ドン・キホーテ(しかも新宿店という名前なのになぜか新大久保寄り)。まぁ落ち着いてもう一度見てください。




ほらね?

ごちゃごちゃした外観、目に痛いネオン、いつものドンペン。怪しげなアジアンテイストが滲み出た非日常感が凝縮された素晴らしい場所です。店の中は結局普通のドン・キホーテなのですが...。

他に九龍城を感じられる場所を私は知りません。よく中野ブロードウェイが槍玉にあげられますが、私はあれはもはや“中野ブロードウェイ”という一つのジャンルだと思っているのでなんか違うんですよね。

3月ごろに放送されていた『夜の巷を徘徊する』で、シェアアトリエのビルを訪問していたマツコ・デラックスが、内観を見るやいなや「九龍城みたいになってるわよ...」と発言していたのが印象的でしたが、あれも私には何かが足りないんです。

THE九龍城と思える場所が現れるのを願って止みません。

6. THE九龍な川崎のゲーセン

だんだん九龍という文字がゲシュタルト崩壊してくる頃合いでしょうが、もう少しお付き合いください。九龍城の雰囲気を限りなく再現したであろうゲームセンターがかつてありました。

ウェアハウス川崎店 電脳九龍城

外観からして完璧です。ドン・キホーテでお茶を濁さずに、これを率先して紹介すべきでは...と思うかもしれませんが、このウェアハウスは2019年11月17日に惜しまれつつ閉店してしまいました。

見てくださいよこの完璧な内観の数々。

本家九龍城を知らない私にとって、ウェアハウスは九龍城を感じられる貴重な場所でした。もっと足しげく通っていれば…お金を落とせばよかった…と思ってなりません。お金を落とさないコンテンツは続きもしないし成長もしない事実を痛感しました。

北斗の拳でケンシロウがおじいさんから託された種モミを水もない枯れた土地に蒔いて、したり顔するシーンが頭に浮かんでしまいます。勝手に育ってくれれば世話ないですよ。

7. 古いものは消えていく

良い側面、悪い側面あれど九龍城はとてもエネルギッシュな場所であったことに間違いはないと思います。その魅力や歴史はこれからも綿々と語られていくことでしょう。もしかしたら、これから新しい映像資料や文献が出てくるのかもしれません。

時代の移ろいと共にVHSやDVDだった映像媒体は配信が主流となり、店頭での金銭のやり取りはカードでピッとしてしまえば終了、商店街は廃れショッピングモールに集約され、もっといえばオンライン通販を活用すれば外に出る必要もない。デパートの屋上遊園地、ドライブインシアター、ゲームセンター、個人経営の書籍店や駄菓子屋も、世の中が最適化されていく中で消つつあります。手間のかからない便利さや小綺麗な建築物に暮らしが塗りつぶされていく中で、昔の文化が世の中から無くなってしまうのは、なんだか勿体無い気がしてなりません。

ノーマル一般社員クーロン林は消えつつある昔の文化を応援しています。